リウマチ性多発筋痛症
~50歳以上の方に急に起こる、肩や腰の痛みとこわばり~
「ある朝起きたら、急に肩や腰が痛くて起き上がれない」「服を着替えるのもつらい」
もし50歳以上で、このような症状が突然現れた場合、それは「リウマチ性多発筋痛症(PMR)」という病気かもしれません。
一般的な知名度は決して高くはないですが、比較的頻度が多く、内科や整形外科の医師でもこの病気を診断できる医師は多くないため、寝たきりになってしまうこともある危険な病気です。名前を聞くと「関節リウマチ」と混同されがちですが、全く別の病気です。適切な診断と治療を行えば、痛みは劇的に改善し、元の生活に戻ることができる病気です。
ここでは、リウマチ性多発筋痛症の原因、症状、検査、そして治療について詳しく解説します。
1. リウマチ性多発筋痛症(PMR)とは?
リウマチ性多発筋痛症は、炎症性のリウマチ疾患の一つで、主に50歳以上の成人に発症し、発症のピークは70歳から80歳の間です。女性は男性と比べて約2〜3倍発症しやすいとされています。
この病気の最も特徴的な症状は、体の中心に近い部分に痛みがでやすい点です。
具体的には、以下の部分に症状が現れることが多いです。
1. 肩と上腕(二の腕)
2. 股関節と大腿(太もも)
3. 頸部(首)
これらの場所に痛みやこわばりがでた場合、日常生活に大きな影響を与えます。
特に股関節の痛みによって寝返りを打てなくなったり、歩くことができなくなり、寝たきりになることも珍しくありません
2. リウマチ性多発筋痛症の特徴
この病気の最大の特徴は、症状の始まり方が「急激」であることです。昨日までは元気だったのに、翌朝目覚めたら急に痛くて動けない、ということも珍しくありません。これはあくまでイメージですが、運動をよく行う方に多い印象があります(定期的にプールで泳いでいる、ゴルフによく行くなど)。
・強い朝のこわばり
リウマチ性多発筋痛症の特徴として、「朝のこわばり(朝起きた時に、関節や筋肉が動かしにくいと感じる症状)」が強く現れます。このこわばりは非常に強く、45分以上続くことがしばしばあります。
・痛みの原因:筋肉が痛いわけではない
よくある誤解として「多発筋痛症」という名前から筋肉の病気だと誤解されがちですが、実際には筋肉そのものには炎症はありません。痛みの主な原因は、関節の周りにある滑液包(関節のクッションとなる袋)や腱(骨と筋肉をつなぐ組織)が炎症を起こしています。
・全身の症状
リウマチ性多発筋痛症の患者さんは、強い炎症反応を起こすことが知られています。この炎症により、しばしば全身の倦怠感、疲労、食欲不振、体重減少、微熱などの全身の症状を起こすことがあります。治療が遅れると消耗していき、寝たきりになることも多いです。
3. リウマチ性多発筋痛症を起こす原因
残念ながら、リウマチ性多発筋痛症がなぜ起こるのか、確実な原因はまだ分かっていません。 現在考えられている可能性としては、以下のようなものがあります。
・悪性腫瘍:リウマチ性多発筋痛症を発症した患者さんは、同時に悪性腫瘍が見つかることが多いとされています。しかし実際は因果関係は逆で、悪性腫瘍が体に出現し、それに伴った免疫の異常がリウマチ性多発筋痛症を起こす、と言われています(腫瘍随伴症候群)。この病気の診断をうけた患者さんは、一度網羅的ながん検診を行うのが良いとされています。
・遺伝的要因:特定の遺伝子タイプ(HLA-DR4など)を持つ人に発症しやすい傾向があり、免疫のシステムが関わっていると考えられています。
・環境要因:季節によって発症数に変動があることなどから、ウイルス感染などが引き金になるのではないかという説もありますが、特定のウイルスは特定されていません。
いずれにしても、免疫機能に何らかの異常が生じ、自分の体を守るはずの免疫細胞が、誤って自分の関節周囲の組織を攻撃してしまうことで炎症が起きると考えられています。
4. 検査と診断
リウマチ性多発筋痛症は様々な検査を複合的に行って診断を行います
血液検査
・炎症反応(CRP):強い炎症を起こす病気なため、ほぼ全ての患者さんで数値が高くなります。関節リウマチや他のリウマチ性疾患の中でも特にCRPの上りが大きいとされています。
・リウマチ因子(RF)、抗CCP抗体:「関節リウマチではない」ことの証明に用いられます。これらが陽性の場合は(リウマチ性多発筋痛症ではなく)関節リウマチだと診断されます。ただし、関節リウマチでも一部の患者さんはこれら検査が陰性になるため、判断に悩むことがあります
画像検査
・超音波検査(エコー検査):肩にある「滑液包」で炎症が起きているか(水が溜まっているか)や、腕の腱(上腕二頭筋長頭腱)に腱鞘炎を起こしているかが診断の助けになります。
・MRI検査:股関節にある「滑液包」での炎症の有無を確認できます
・PET検査: 炎症の広がりや、血管の炎症(巨細胞性動脈炎)が隠れていないか、そして癌がないかを網羅的に調べることができます。ただし、自費の検査になるため、10万円程度の価格がかかる点が問題です。
がん検診
前にも書いた通り、リウマチ性多発筋痛症を発症した患者さんは、同時に悪性腫瘍が見つかることが多いとされています。しかし実際は因果関係は逆で、悪性腫瘍が体に出現し、それに伴った免疫の異常がリウマチ性多発筋痛症を起こす、と言われています(腫瘍随伴症候群)。この病気の診断をうけた患者さんは、一度網羅的ながん検診を行うのが良いとされています。
巨細胞性動脈炎の合併
リウマチ性多発筋痛症には「巨細胞性動脈炎(別名:側頭動脈炎)」という太い血管でおきる血管炎を合併することが多いことが知られています。リウマチ性多発筋痛症の関節痛と共に「頭痛がする」「顎が疲れやすい」「目が見えにくい」などの症状がある場合には、すぐに医師にご相談ください。側頭動脈エコー、造影CT検査やPET検査、眼科受診で診断を行います。
診断とその難しさ
この病気の診断は非常に難しく、一般的な内科医・整形外科医では診断が難しいだけでなく、私たち膠原病内科医(リウマチ科医)でも判断に悩むことが多い病気です。その大きな理由としては、3つあります。
① 「この検査が陽性ならリウマチ性多発筋痛症」という決め手となる検査がない
これまで様々な検査を説明してきましたが、「リウマチ性多発筋痛症の診断となる検査結果」がなく、診断に悩むことが多いです。関節超音波検査などでこの病気に多い証拠を集めつつ、同時に他の病気の可能性を下げていくことで診断に近づきます。
② 似ている病気(関節リウマチなど)と見分けがつかない
専門医でもこの2つの病気の明確な分類は難しく、リウマチ性多発筋痛症と診断された患者様のうち、約30%が数か月から数年の経過観察中に、最終的に関節リウマチと再分類される可能性があることが、研究によっても示されています。その一方で、この2つの病気は治療方法が概ね同じなため、どちらの診断名として治療を開始しても、大きく問題になることは少ないです。そのため、最初から「関節リウマチかリウマチ性多発筋痛症か」の区別を決めつけることはせずに、治療の反応や痛みがでる関節を時間をかけてみていくことで、徐々に診断に近づけていくことが大切だと思います。
③ 悪性腫瘍(癌)による症状の可能性がある
いくらリウマチ性多発筋痛症の検査結果と合致する症状だったとしても、悪性腫瘍による症状であることがあります。この場合は、悪性腫瘍を体から排除することで、リウマチ性多発筋痛症も同時に良くなることもあります。抜け目のないがん検診が大切になります。
これらより、最初の時点で診断を決めつけるのではなく、治療を行いつつ「本当にリウマチ性多発筋痛症か?」と注意して、必要な時には軌道修正を行うことで、より良い治療に結び付けていくことになります。
5. 治療
治療の基本は、炎症を抑える「ステロイド(副腎皮質ホルモン)」の飲み薬です。効果も強いですが副作用も強いため、最近は、(リウマチ性多発筋痛症ではなく)関節リウマチだったと考えて「トシリズマブ(アクテムラ®)」を用いることが多いです。
ステロイドホルモン治療
「プレドニゾロン」と言われるステロイドホルモンの薬を用いて治療を行います。副作用が多い薬なため、特殊な量の調節を行います。
① 治療開始の時期
プレドニゾロンという薬を、最初は15~20mg(5mgを3錠~4錠)という中等量で治療を開始することが多いです。この期間は特にステロイドホルモンの副作用が多く出現する時期で、眠れなくなったり、気持ちの浮き沈みが大きくなったりすることが多いです。この最初の多い量は約4週間程度続きます。
② 減量の時期
もし最初の治療でしっかりと病気が治まった場合には、ステロイドを減らしていくことになります。ステロイドは免疫を下げる副作用のほか、「心筋梗塞・脳梗塞のリスクを増やす」「骨を弱くする(骨粗鬆症になる)」「高血圧症・糖尿病・脂質異常症になりやすくなる」「皮膚や血管が弱くなる」「白内障・緑内障になりやすくなる」などの多くの副作用があります。これらは「長く・多い量で」ステロイドを飲むと出現する症状です。少しでも使うステロイドの量を減らすために、少しずつステロイドの量を減らしていきます。1か月に1回程度の受診をして減量していくことが多いです。
③ 維持の時期
残念ながらリウマチ性多発筋痛症は治る病気ではなく、薬で抑えている病気になります。そのため、ステロイドを減らしていくとどこかのタイミングで再発してしまいます。「病気は抑えられるが、最小のプレドニゾロンの量」がわかると、あとはそれを維持することになります。
関節リウマチの診断・治療へ:トシリズマブ(アクテムラ®)治療
以前はリウマチ性多発筋痛症に対してはプレドニゾロンによるステロイド治療のみを行っており、長い間ステロイドを飲み続けることによる副作用が問題になりました。具体的には、骨が弱くなり多くの骨折を繰り返して寝たきりになることや、心筋梗塞・脳梗塞を繰り返すことなどがありました。
近年では、リウマチ性多発筋痛症ではなく「関節リウマチによる関節炎」だったと考え、「トシリズマブ(アクテムラ®)」という薬を使うことがあります。長期的に使用しても蓄積する副作用がないため、良い治療選択肢となります。
詳しくは関節リウマチの治療となるため、そちらをご参照下さい。
19. 薬物治療(4):生物学的製剤とJAK阻害薬「トシリズマブ(アクテムラ®)」
当院では膠原病内科(リウマチ科)の専門医と指導医の資格を持った医師が治療にあたります。また、生物学的製剤などの最新の薬まで駆使してリウマチ性多発筋痛症の治療に当たります。千葉でリウマチ性多発筋痛症の診断・治療が気になった方は、是非「こあら内科クリニック」にご相談下さい!
