強皮症
全身性強皮症(強皮症)について
皮膚や内臓が硬くなる病気「強皮症」について、病気の仕組みから治療法、日常生活での注意点までを詳しく解説します。
1. 強皮症とは
「強皮症(きょうひしょう)」という名前は、文字通り「皮膚が硬くなる(強くなる)病気」という意味からきています。医学的には「全身性硬化症」とも呼ばれます。
この病気の最大の特徴は、皮膚や内臓に「線維化」という変化が起きることです。線維化とは、傷が治ったあとに傷跡が硬くなるのと同じような現象です。本来は体を守るはずのコラーゲンというタンパク質が過剰に作られ、皮膚や内臓に溜まってしまうことで、組織が硬く厚くなってしまいます。
また、この病気は「自己免疫疾患」の一つでもあります。私たちの体には、細菌やウイルスから身を守る「免疫」というシステムがありますが、強皮症ではこの免疫システムが誤作動を起こし、自分自身の体を攻撃してしまうことで炎症や組織の破壊が起きます。
強皮症は大きく分けて、皮膚だけの病変にとどまる「限局性強皮症」と、内臓も含めて全身に影響が出る「全身性強皮症」の2つがありますが、ここでは一般的に難病として知られる「全身性強皮症」について説明します。全身性強皮症はさらに、皮膚が硬くなる範囲の広さによって「びまん皮膚硬化型」と「限局皮膚硬化型」に分類され、それぞれ症状の進み方や内臓への影響の出やすさが異なります。
2. 有病率や疫学
強皮症は、他の自己免疫疾患と同じように、男性よりも女性に多く見られる病気です。女性の患者数は男性の3~8倍といわれています。発症する年齢は30~50代が多いですが、どの年齢でも発症する可能性はあります。
興味深いことに、性別によって症状の出方に違いがあることがわかっています。女性は皮膚が硬くなる範囲が狭いタイプ(限局皮膚硬化型)になりやすく、レイノー現象(指先が白くなる症状)が起きてから診断されるまでに時間がかかる傾向があります。一方、男性は皮膚が硬くなる範囲が広いタイプ(びまん皮膚硬化型)になりやすく、内臓の病変や重い症状が出やすい傾向があると報告されています。
3. 原因
「なぜ強皮症になるのか」という根本的な原因は、残念ながらまだ完全には解明されていません。
しかし、一つの原因だけで起きるのではなく、いくつかの要因が複雑に重なり合って発症すると考えられています。
遺伝的な要因
家族内で発症することがあるため、遺伝子が関係していると考えられていますが、特定の遺伝子があれば必ず発症するというわけではありません。
環境的な要因
シリカや有機溶剤などの化学物質に仕事で長く触れていた人において、強皮症のリスクが高まるという報告があります。
免疫の異常
自分の細胞を攻撃してしまう抗体(自己抗体)が作られることからも、免疫システムの異常が深く関わっていることは間違いありません。
これらが組み合わさることで、血管が傷つき、免疫が活性化し、コラーゲンが過剰に作られるという悪循環が始まると考えられています。
4. よくある臓器病変
強皮症は「全身性」という名前の通り、皮膚だけでなく体のあちこちに症状が出ることが特徴です。
皮膚
最も一般的な症状です。指先がむくんで腫れぼったくなる(ソーセージのような指になる)ことから始まり、次第に皮膚が硬くつまめなくなります。
レイノー現象
寒さやストレスを感じたときに、指先が真っ白になったり、青紫色になったりする現象です。患者さんのほぼ全員に見られ、病気の初期サインとして重要です。悪化した場合には、指先に傷ができて治らない場合や、壊死してしまうこともあります。
肺 (間質性肺炎・肺高血圧症)
肺が硬くなる「間質性肺炎」や、肺の血管の圧力が高くなる「肺高血圧症」が起こることがあります。これらは息切れや咳の原因となり、命に関わることもある重要な合併症です。病気の初期は症状がでないことも多いため、定期的な検査が大切になります
消化器(胃腸)
食道が硬くなり動きが悪くなることで、胃酸が逆流して胸焼けが起きやすくなります(逆流性食道炎)。また、腸の動きが悪くなって便秘や下痢を繰り返したり、栄養の吸収が悪くなったりすることもあります。
腎臓(強皮症腎クリーゼ)
突然血圧が非常に高くなり、急激に腎臓の働きが悪くなる「強皮症腎クリーゼ」という状態になることがあります。これは緊急の治療が必要です。
心臓
心臓の筋肉が線維化したり、心臓を包む膜に炎症が起きたりすることがあります。
5. 臓器病変ごとの治療方法
強皮症の治療は、他の膠原病の治療と比べてもまだ確立された良い治療方法はありません。ただし近年で治療は大きく進歩しており、病気の進行を和らげる治療が提案されています。
皮膚の症状
皮膚の硬化が広い範囲で進んでいる場合には、免疫の働きを抑える薬(免疫抑制薬)を使います。かゆみに対しては保湿剤などを使います。
レイノー現象
血流を良くする薬などを用いることがあります。体を冷やさないようにすることも大切です。
肺(間質性肺炎)
肺の炎症や線維化が進む可能性がある場合、免疫抑制薬や、肺が硬くなるのを防ぐ薬(抗線維化薬)、炎症を抑える生物学的製剤などが使われます。
肺(肺高血圧症)
肺の血管を広げて血圧を下げる専用の薬(血管拡張薬)を使います。症状の重さに応じて、飲み薬や点滴などを組み合わせます。
腎臓(強皮症腎クリーゼ)
何よりも血圧を下げることが重要です。ACE阻害薬という種類の血圧を下げる薬が用いられることが多いです。
消化器(逆流性食道炎など)
胃酸を抑える薬などを使います。
6. 治療をしなければならない理由
強皮症の治療を行う最大の理由は、「臓器が回復不可能なダメージを受けるのを防ぐため」です。
一度線維化して完全に硬くなってしまった肺や腎臓の組織を、元の柔らかい状態に戻すことは困難です。しかし、病気の進行が活発な早い段階で治療を始めれば、線維化の進行を和らげることができます。特に、肺や腎臓、心臓といった重要な臓器のダメージを最小限に抑えることは、その後の人生を長く、自分らしく過ごすために不可欠です。
臓器のダメージを見逃さないためには、症状を起こす前に見つけることが大切で、定期的な検査が大切になります。
7. 治療目標
治療の目標は、病気を「治癒(完全に治す)」)とではなく、「病気の勢いを抑え、現状を維持し、生活の質(QOL)を保つ」ことに置かれます。
具体的には以下のことを目指します。
- 皮膚や内臓の硬化(線維化)の進行を止める、または遅らせる。
- レイノー現象や胸焼けなどのつらい症状を和らげる。
- 肺高血圧症や腎クリーゼなどの危険な合併症を予防し、起きた場合は早期に対処して命を守る。
8. 全身性強皮症の診断
日本では「全身性強皮症・診断基準2010年」をもとに診断されます。
【全身性強皮症・診断基準 2010年】
大基準
手指あるいは足趾を越える皮膚硬化
小基準
- 手指あるいは足趾に限局する皮膚硬化
- 手指尖端の陥凹性瘢痕、あるいは指腹の萎縮
- 両側性肺基底部の線維症
- 抗Scl-70抗体(トポイソメラーゼⅠ)抗体、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼⅢ抗体陽性
診断
大基準、あるいは小基準1)かつ2)~4)の1項目以上満たせば全身性強皮症と診断
自己抗体(抗〇〇抗体)が陽性で、かつ皮膚の硬さを伴う場合には、基本的に診断基準を満たすことになります。
9. 特定疾患の申請について
全身性強皮症は国の指定難病に該当する病気で、「指定難病医療費助成申請」を行い認定をうけることで、全身性強皮症に対する治療費用については国からの補助をうけることができようになります。ただし認定を受けるためには、前述した「全身性強皮症の診断基準」を満たすことに加えて、「重症度分類がmoderate(中等度)以上」である必要があります。
認定を受けるために必要な書類は複数ありますが、その中でも「臨床調査個人票」は主治医の先生に書いてもらう必要があります。全身性強皮症の患者さんで、ご自身が医療費助成を満たすか気になる方や、申請について気になる方は、主治医先生にご相談ください。
※ 臨床個人調査票に関わる文章料は公費助成の対象にはなりません
※ 書類を提出しても認定されるかは審査結果によります
10. 病気の見通し
現在、強皮症の患者さんの予後(病気の見通し)を左右する最も大きな要因は、肺の病変(間質性肺炎や肺高血圧症)と心臓の病変とされています。しかし、近年の医学の進歩により、特に間質性肺炎に対しては次々に新しい治療方法が導入されており、昔に比べて生存率が向上しています。
11. 【重要】症状がなくても定期的な検査を!
最後に、最も強調しておきたいことがあります。それは、「自覚症状がなくても、定期的に病院に通い、検査を受けること」の重要性です。
特に、肺が硬くなる「間質性肺炎」は、初期の段階では咳や息切れといった症状が全く出ないことがよくあります。患者さんが「なんとなく息が苦しいな」と感じて病院に来たときには、すでに肺のダメージがかなり進んでしまっていることも少なくありません。
症状が出てからでは、治療を始めても肺の機能を元に戻すのが難しくなります。しかし、症状がないうちから定期的に胸部レントゲン検査やCT検査、肺活量の検査などを受けていれば、ごく初期の段階で肺の変化を見つけることができます。早期に発見できれば、お薬で進行を食い止められる可能性がぐっと高まります。
「元気だから病院に行かなくてもいいや」と思わず、膠原病内科の専門医のもとへ定期的に通院し、肺や心臓のチェックを受け続けることが、あなたの大切な体を守る一番の方法です。
当院では、膠原病内科の専門医・指導医の資格を持った医師が、胸部レントゲンや呼吸機能検査による肺活量検査など、臓器病変がないかを定期的に確認しつつ、安全な強皮症治療を行っています。
千葉で全身性強皮症が気になった方は、是非「こあら内科クリニック」にご相談下さい!
