抗リン脂質抗体症候群
抗リン脂質抗体症候群(APS)
ここでは、全身に血の塊ができやすくなる膠原病「抗リン脂質抗体症候群」について解説します。
1. 抗リン脂質抗体症候群とは
抗リン脂質抗体症候群(通称APS)は、本来であればウイルスや細菌から自分の体を守るはずの免疫システムが、誤って自分自身の血液中のタンパク質を攻撃してしまう「自己免疫疾患」のひとつです。 具体的には、「抗リン脂質抗体」という厄介な抗体が血液の中に作られ、これが原因で血液が固まりやすくなる病気です。
通常、血液は出血したときだけ固まる仕組みになっていますが、この病気では血管の中で不必要に血液が固まり、「血栓」という血の塊を作ってしまいます。その結果、足の静脈や脳の動脈などが詰まったり、妊娠中の女性では胎盤の血管が詰まることで流産や早産を繰り返したりするのが大きな特徴です。
また、この病気は以下の2つのタイプに分けられます。
〇 原発性抗リン脂質抗体症候群
ほかの病気がなく、この病気だけが単独で発症する場合。
〇 続発性抗リン脂質抗体症候群
他の自己免疫疾患、特に「全身性エリテマトーデス」を持っている方に合併して発症する場合です。これらを合併する場合は大きく治療が変わるため、同時に検査をする必要があります。
詳しくはこちら「全身性エリテマトーデス」
2. 有病率やどのような方が発症するか
この病気は決して珍しいものではありませんが、頻繁に見かける病気でもありません。
推計では、人口10万人あたり17人~50人程度がこの病気を持っているとされています。
どの年齢でも発症する可能性がありますが、特に若い女性に多く見られます。全身性エリテマトーデスを持っている患者さんの約30〜40%が、この抗体を持っていると言われています。
3. 原因
なぜ自分の体を攻撃する抗体が作られてしまうのか、その完全な原因はまだわかっていませんが、大きく2つの段階があると考えられています
1) 第1段階(準備状態):生まれつきの体質や環境の影響で、血液中に「抗リン脂質抗体」が存在している状態です。しかし、抗体があるだけでは血栓ができないこともあります。
2) 第2段階(引き金):感染症、手術、妊娠、喫煙、特定の薬の使用、炎症などが「引き金」となり、血液を固めるスイッチが入って血栓症が発症すると考えられています。
4. 抗リン脂質抗体症候群の症状
この病気は全身のあらゆる血管に影響する可能性があるため、症状は人によってさまざまです。
足の血栓(深部静脈血栓症)
足の静脈に血栓ができ、片足が急に腫れたり痛んだりします。最も多く見られる症状のひとつです。この足にできた血の塊が歩いた拍子などで飛んでしまうと、下記の「肺塞栓症」を起こし命に関わります。
肺の血栓(肺塞栓症)
足などにできた血栓が流れると、その先にある肺の動脈につまります。これを「肺塞栓症」と呼びます。肺の血管に詰まると、酸素を血液に取り込むことができなくなるため、突然呼吸ができなくなり、命に関わることもあります。
脳の血栓(脳梗塞)
脳の動脈が詰まると、脳梗塞を発症して、手足の麻痺や言葉が出にくいなどの症状が出ます。特に若い人の脳梗塞の原因として重要です。
妊娠のトラブル
抗リン脂質抗体症候群の患者さんが妊娠すると、胎盤に血栓ができることで様々な問題がおきます。具体的には、妊娠10週以降の流産や死産、重症の妊娠高血圧、胎盤の機能不全による早産などが起こりやすくなります。また、妊娠初期の繰り返す流産の原因にもなります。
皮膚の症状
網目状の青紫色の模様(網状皮斑)が手足に見られることがあります。
血液の異常
血小板という血を固める成分が減少し(血小板減少症)、出血しやすくなることがあります。
心臓の弁
心臓の弁が厚くなったり、イボのようなものができたりして、弁の働きが悪くなることがあります。
劇症型抗リン脂質抗体症候群(CAPS)
ごく稀ですが、「劇症型抗リン脂質抗体症候群」といって、短期間に全身のあちこちの血管が詰まり、命に関わる重篤な状態になることもあります。
5. 診断基準
抗リン脂質抗体症候群には複数の診断基準がありますが、共通して言えることとして、この病気の診断は、単に血液検査で陽性が出ればよいというわけではなく、「臨床症状」と「検査結果」の両方が当てはまる場合に診断されます。
1) 臨床基準(症状があること)
- 過去に静脈や動脈で血栓ができたことがある。
- 妊娠中に特定の流産や早産などを経験したことがある。
2) 検査基準(抗体が証明されること)
- 血液検査で「抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2GPI抗体など)」が陽性であること。
※これらの抗体は一時的に陽性となることもあるため、持続的に陽性かの確認が大切です
■ 特定疾患申請時の抗リン脂質抗体症候群
A. 臨床基準
1. 血栓症 :血管壁の炎症を伴わない動静脈あるいは小血管の血栓症
2. 妊娠合併症:①~③のいずれか
① 妊娠10週以降で、他に原因のない正常形態胎児の死亡、
② 子癇、重症の妊娠高血圧腎症、胎盤機能不全による妊娠34週以前の早産
③ 3回以上つづけての妊娠10週以前の流産
B. 検査基準
- ループスアンチコアグラントが12週間以上の間隔をおいて2回以上検出
- IgG型又はIgM型のaCLが12週間以上の間隔をおいて2回以上検出される。
- IgG型又はIgM型の抗β2GPI抗体が12週間以上の間隔をおいて2回以上検出される。
<診断>Aの1, 2のいずれか1項目以上を認め、かつBの1~3のいずれか1項目以上を満たすとき。
※厚生労働省「難病情報センター」より
6. 特定疾患の申請について
抗リン脂質抗体症候群は国の指定難病に該当する病気で、「指定難病医療費助成申請」を行い認定をうけることで、この病気に対する治療費用については国からの補助をうけることができようになります。ただし認定を受けるためには「抗リン脂質抗体症候群の診断と重症度」が認定基準を満たす必要があります。
認定を受けるために必要な書類は複数ありますが、その中でも「臨床調査個人票」は主治医の先生に書いてもらう必要があります。抗リン脂質抗体症候群の患者さんで、ご自身が医療費助成を満たすか気になる方や、申請について気になる方は、主治医先生にご相談ください。
※ 臨床個人調査票に関わる文章料は公費助成の対象にはなりません
※ 書類を提出しても認定されるかは審査結果によります
7. 抗リン脂質抗体症候群の治療を行うかどうか
治療を行うかどうかは、血栓症を起こしたことがあるかどうかが大きな分かれ道になります。
1) 血栓症や妊娠合併症の経験がある方
- 基本的に治療が必要です。治療をしないと再発するリスクが高いためです。
2) 抗体は持っているが、血栓症の経験がない方
- 健康な人でも抗体だけ持っている場合があります。この場合、血液をサラサラにする薬は通常使いません。
- ただし、自己抗体の量が多い場合や、SLEなどの病気がある場合には、予防的に少量のアスピリンを使うことが検討されることもあります。
8. 抗リン脂質抗体症候群の治療
治療の基本は、血液を固まりにくくして血栓を防ぐこと(抗血栓療法)です。
① 抗凝固薬「ワーファリン」
- 静脈に血栓ができた場合、一般的に「ワーファリン」という飲み薬を使います。
- 薬の効果が変動しやすく、効きにくい場合は血栓ができ、効き目が強い場合は出血してしまいます。そのため、定期的に血液検査(PT-INRという数値)を行い、薬の効き具合を調整します。
- ワーファリンを使用している患者さんは、薬の効果を減らしてしまうため、ビタミンKを多く含む食品「納豆、青汁、クロレラ」を食べないように注意が必要です。
※ 最近よく使われるDOACと呼ばれる抗凝固薬は、この病気に関してはワーファリンよりも効果が不十分な場合があるため、基本的にはワルファリンが推奨されています
② 抗血小板薬
- 動脈に血栓ができた場合(脳梗塞など)は、抗血小板薬を使用することが多いです
③ 妊娠中の治療
- ワーファリンは赤ちゃんに悪影響を与える可能性があるため、妊娠中は使えません
- 妊娠中は「ヘパリン」という注射薬と抗血小板薬の飲み薬を組み合わせて治療します。これにより、無事に出産できる確率が大きく上がります。
9. 治療の目標
〇 血栓症の再発予防
一度血栓症を起こした方が治療をやめると、高い確率で再発してしまいます. 最大の目標は、薬を適切に使って二度と血管を詰まらせないことです。
〇 妊娠の成功
妊娠中の患者さんにおいては、お母さんの血栓を防ぎながら、赤ちゃんに十分な血液を送り、無事に出産を迎えることが目標です。
そのためには、抗リン脂質抗体症候群と診断された患者さんは、定期的に膠原病内科の専門医を受診して、血の塊ができていないか確認することが重要です
10. 予後(病気の見通し)
〇 長期的な見通し
適切な治療を続けていれば、多くの方は通常の生活を送ることができます。10年間の追跡調査では、約9割の方が生存されています。
〇 再発のリスク
薬を飲んでいても血栓症が再発する可能性はゼロではありませんが、しっかりと治療を続けることでリスクを下げることができます。薬を自己判断でやめてしまうことが最も危険です。
〇 注意点
手術を受ける際や、長時間の不動(エコノミークラス症候群)など、血栓ができやすい状況には特別な注意が必要です。
この病気は、専門的な管理が必要ですが、医師と相談しながら適切に付き合っていくことで、症状をコントロールしていくことが可能です。
当院では膠原病内科の専門医と指導医の資格を持った医師が治療にあたります。
千葉で抗リン脂質抗体症候群の診断・治療が気になった方は、是非「こあら内科クリニック」にご相談下さい!
