治療戦略の基本:「T2T(目標達成に向けた治療)」
関節リウマチの治療は、単に痛みを取り除くだけでなく、関節変形の進行を食い止め、患者さんが質の高い日常生活を送れるようにすることを目指しています。
この目標を達成するために、近年、リウマチ専門医によって世界的に推奨され、標準的な治療戦略となっているのが、「T2T(Treat to Target):目標達成に向けた治療」という考え方です。
1. T2T戦略とは何か?
T2T戦略は、関節リウマチの治療において、あらかじめ具体的な目標を設定し、その目標に到達するまでは治療をこまめに(高頻度に)かつ積極的に調整していく方法です。
この戦略で大切になる要素は以下の二つです。
1. 頻繁な再評価(定期的なモニタリング)
疾患活動性(病気の勢い)をいくつかの数値の指標を使って、定期的に評価します。
2. 目標に向けた治療薬の調整:
定期的な評価の結果で目標(寛解または低疾患活動性)に達していない場合、リウマチ治療薬を速やかに調整または強化します。
2. なぜT2T戦略が必要なのか?
関節リウマチは、放置すれば軟骨や骨が破壊され、関節の変形につながる可能性があります。特に、関節の損傷の大部分は、病気がおさまっていない最初の2年間に起こる可能性があり、この初期の変形が生涯にわたって残ることになります。
T2T戦略を採用し、病気の活動性(炎症)を最初の時点で積極的かつ厳しくおさえること(タイトコントロール)は、以下のような点で重要であることが、多くの臨床研究で示されてきました。
- 関節破壊の進行を遅らせる、または止める:病気の活動が高い状態が続くと、関節構造の破壊が進んでいきます。T2T戦略によって炎症を早くかつ継続的に抑えることで、生涯に残る関節破壊を遅らせ、予防することができます。
- 機能障害の予防:関節の破壊が起きると、歩くことや物を持つことなどの、日常生活を送るための機能が生涯にわたって低下してしまいます。T2T戦略によって機能障害の発生を防ぐことができ、早期に寛解を達成できた患者さんは、後々の機能障害が軽減されることが示されています。
- 治療効果の向上:T2Tアプローチは、使用する薬の種類ではなく、治療戦略そのものが患者さんの日常生活を改善させる上で重要であることが示されています。抗リウマチ薬を病気の非常に早い段階(理想的には症状が出てから3か月以内)に使用することが、より良い結果をもたらすとされています。
3. 治療の目標となる「寛解」と「低疾患活動性」とは?
T2T戦略において目指す目標は、主に「寛解(Remission)」または「低疾患活動性(Low Disease Activity)」です。
① 寛解
寛解とは、病気が活動することで起きる症状(関節の腫れや痛みなど)がほとんど、または全くない状態を指します。寛解を達成して維持することが、関節リウマチ治療の最終目標です。
- 寛解を達成した後も、関節の破壊がわずかに進む可能性はありますが、寛解状態を維持することで、関節破壊の進行を大きく遅らせることができます。
- 専門的な寛解の定義は厳密に計算で求めることができます。米国リウマチ学会(ACR)と欧州リウマチ学会(EULAR)が共同で定めた基準が用いられており、この基準は、「関節の腫れや圧痛の数」「患者様自身による病状の評価」「炎症反応(CRPなど)の数値」を組み合わせて判断されます。いくつかの計算方法がありますが、「CDAI(Clinical Disease Activity Index)が2.8以下」または「SDAI(Simplified Disease Activity Index)が3.3以下」などが、厳格で信頼性の高い寛解の定義とされていますが、計算は少し難しいです。
- 数値での評価は難しいと思いますので、簡単に寛解状態は「関節の腫れや痛みがない状態」や「CRP(炎症の数値)が低い状態」ととらえていただくのがよいと思います。
② 低疾患活動性(Low Disease Activity: LDA)
残念ながら、すべての患者さんにとって寛解が達成できるわけではありません。腎臓や肝臓の合併症(併存疾患)がある場合や、関節の損傷が既に進んでいる場合など、個々の患者様の状況によっては、低疾患活動性(LDA)を目標とすることも適切とされています。
低疾患活動性は、病気の活動性を低いレベルで抑えることで、生活の質(QOL)を改善し、体の機能低下を抑えるのに十分な目標と考えられています。
4. 病気の活動性の評価方法(複合指標)
T2T戦略では、痛みの度合いや血液検査の結果といったひとつの数値だけでなく、複数の要素を組み合わせた複合的な評価ツールを用いて、客観的に病気の勢いを測定します。
主要な複合指標には、以下のようなものがあります。
- DAS28(Disease Activity Score using 28 joints)
28か所の関節の腫れや圧痛の数、患者さんの自己評価、そして炎症反応(ESRまたはCRP)を組み合わせて算出されるスコアです。 - SDAI(Simplified Disease Activity Index):28か所の関節の腫れや圧痛の数、患者さんと医師による全体評価、そしてCRPを組み合わせて算出されるスコアです。
- CDAI(Clinical Disease Activity Index):SDAIからCRPを除外し、臨床的な評価のみで計算されるスコアです。
これらの複合指標は、病気の活動性の程度(高活動性~中活動性~低活動性~寛解)を数値で示すことができ、治療効果を判断して、治療を強化するべきかを決めるのに役立ちます。
5. T2T戦略の実際 (治療の「早期」と「頻繁な調整」)
関節リウマチの治療において、抗リウマチ薬による早期の治療が長期でみた時の身体機能の改善に役立つことが、過去の研究からわかっています。
- 早期治療が大切:関節リウマチを発症した直後に強い抗リウマチ薬を積極的に使用する戦略は、治療の効き目の面でも、関節破壊を防ぐためにも、患者さんによい効果があると言われています。
- 抗リウマチ薬の調整:治療を開始して3~6か月が経過しても病気の活動性が高い状態が続く場合には、速やかに抗リウマチ薬を増やしたりより強い治療への変更を行い、目標達成を目指します。
T2T戦略は、患者様と医師が共通の目標に向かって協力し、定期的な数値評価によって客観的に治療を進めていく、わかりやすい治療戦略になります。
当院では関節リウマチの研究経験のある医師が治療にあたっています。リウマチの活動性の評価についても客観的な指標を用いて行うため、安心して治療ができます。千葉で関節リウマチの治療が気になった方は、是非「こあら内科クリニック」にご相談下さい!
