脊椎関節炎
脊椎関節炎とは
脊椎関節炎とは、一つの病気の名前ではなく、背骨(脊椎)や骨盤の関節、あるいは手足の関節に炎症が起きる、いくつかの病気の総称(グループ名)です。「強直性脊椎炎」や「乾癬性関節炎」のように特定の名前がついている病気もある一方で、特定の名前がつかない病名は「分類不能脊椎関節炎」として治療することもあります。ここではこれらの脊椎関節炎について網羅的に説明していきます。
1. 脊椎関節炎の特徴
関節が炎症を起こす免疫の病気としては関節リウマチが有名ですが、脊椎関節炎はこれらとは異なり、以下のようないくつかの共通した特徴を持っています。
- 背骨や骨盤、腱や靭帯に炎症が起きやすい
腰や背中、お尻の関節(仙腸関節)が痛むことが多く、普通の腰痛と区別が難しいことが多いです。また、アキレス腱のかかと部分や、足の裏などが腫れて痛む「付着部炎」が起きやすいです。
- 指の腫れ
手や足の指が全体的にソーセージのように赤く腫れることがあります。
- 朝や安静にしていると悪化して、運動で改善する
じっと体を動かさずにいたり、夜寝ていて朝初めて動く時に痛みが強いことが多いです。また、逆に動いていると徐々に楽になるのが特徴です。運動が効果的とされています。
- 関節以外にも病気が出現する
関節だけでなく、目が赤く痛む(ぶどう膜炎)、皮膚に乾癬やニキビなどの発疹が出る、お腹の調子が悪くなる(炎症性腸疾患)といった、全身の症状を伴うことがあります。
2. どのくらいの人がなるか:有病率や疫学
この病気は遺伝学的に起こしやすい家系の方がいる一方で、日本人ではその割合が少ないため、日本での有病率は海外よりも低いとされています。具体的には、世界的には人口の約1%程度でみられると推定されますが、日本では0.1%前後とされています。頻度は決して多くありませんが、その一方で「この検査が陽性なら脊椎関節炎」という決め手となる検査がないこと、診断・治療経験がない医師も少なくない、ということから、診断がつかず、見逃されていることも多い病気です。場合によっては、診断まで年単位の時間がかかり、診断時には背骨が硬くなり手遅れになることもあります。気になりましたら一度専門医の受診を検討してみてください。
・年齢:多くの場合、45歳未満の若い世代で発症します。特に20代から30代で症状が出始めることが多いのが特徴です。
・性別:以前は男性に多い病気だと考えられていましたが、最近の研究では、病気のタイプによっては女性も男性と同じくらい発症することがわかってきました。
3. 症状の出方による分類(病気のタイプ)
脊椎関節炎は、症状が出る場所によって大きく2つのグループに分けられます。
1. 体軸性脊椎関節炎
主に背骨や骨盤(仙腸関節)に症状が出るタイプです。
2. 末梢性脊椎関節炎
主に手足の関節に症状が出るタイプです。
同じ病名でも、これら「体の中心部」と「手足」のどちらの症状が強いかによって、使用する薬も変わってきます。
4. 脊椎関節炎に含まれる具体的な病気
〇 強直性脊椎炎
背骨の炎症が中心となる代表的な病気です。
指定難病にあたる病気であり、申請が受理されると医療費負担少なく治療が可能です
〇 乾癬性関節炎
皮膚の病気である「乾癬」に伴って関節炎が起きる病気です。
〇 反応性関節炎
尿道炎や胃腸炎などの感染症にかかったあと、数週間して関節炎が起きる病気です。
痛み止めなどで様子をみることで自然に改善することが多いです
〇 炎症性腸疾患に伴う関節炎
クローン病や潰瘍性大腸炎といった腸の病気に合併して関節炎が起きることがあります。
〇 SAPHO症候群
皮膚の病気(ニキビや手足の水ぶくれ)と骨関節の炎症を特徴とする病気です。
5. 脊椎関節炎を発症する原因
はっきりとした原因はまだ完全には解明されていませんが、以下の3つの要素が複雑に関係して発症すると考えられています。
- 遺伝的な体質
「HLA-B27」という特定の遺伝子の型を持っている人は、持っていない人に比べてなりやすい傾向があります。ただし、「この遺伝子があれば必ず発症する」というわけではありませんし、「この遺伝子がなければ強直性脊椎炎ではない」というわけでもありません。
- 免疫の異常
本来は体を守るはずの免疫システムが、何らかのきっかけで自分の体を攻撃してしまうことで炎症が起きます。この時、「TNF」や「IL-17」といった物質が体の中で過剰に作られ、炎症を引き起こすことが分かっています。そのため、これらの物質を抑える薬が治療としても用いられています。
- 環境要因やストレス
腸内細菌のバランスの乱れや、虫歯、感染症、関節への物理的なストレスなどが引き金になると考えられています。
6. 治療をしなければならない理由
単なる腰痛や関節痛だと思って放置しておくと、様々な問題がでる可能性があります。
・背骨が固まって動かなくなる
炎症が長く続くと、骨と骨がつながってしまい(強直)、背骨が一本の棒のようになって動かせなくなることがあります。これを「バンブースパイン(竹のような背骨)」と呼びます。こうなると、前かがみの姿勢で固まってしまったり、首が回らなくなったりして、日常生活に大きな支障が出ます。
・生活の質(QOL)の低下
常に痛みや疲れを感じることで、仕事や学業、趣味などが続けにくくなることがあります。
・その他の合併症
目の炎症(ぶどう膜炎)による視力低下や、心臓や血管の病気、骨粗鬆症による骨折などのリスクが高まることがあります。
7. 治療目標
治療の最大の目標は、「健康な人と変わらない生活を送れるようにすること」です。 具体的には以下の点を目指します。
1. 痛みやこわばりがない、炎症が治まっている「寛解」を目指す
2. 関節や背骨が変形したり固まったりするのを防ぐ
3. 仕事や学校、社会生活を問題なく続けられるように機能を保つ
8. 治療
治療は、薬を使う「薬物療法」と、運動などを行う「非薬物療法」を組み合わせて行います。日本でも国際的なガイドラインに基づいた標準的な治療が行われています。
- 運動療法(リハビリテーション)
他の関節の病気と比較しても、脊椎関節炎においては運動が非常に重要です。薬で痛みを抑えるだけでなく、背骨や関節が固まらないようにストレッチや体操を続けることが、将来の体の機能を保つために不可欠です。
- 薬物療法
① 痛み止め/抗炎症薬(NSAIDs)
一般的には痛み止めとして使われているNSAIDsと呼ばれる薬が、炎症を抑えて病気を改善することにも役立ちます。これが最初に使われる最も基本的な治療です。
② 抗リウマチ薬(DMARDs)
手足の関節炎が強い場合などに、関節リウマチで使用する免疫の働きを調節する薬や免疫抑制薬を使用します。
- 生物学的製剤など
従来の痛み止めや飲み薬で効果が不十分な場合に使用される、非常に効果の高い注射の薬です。近年、この薬の登場によって治療は劇的に進歩しました。生物学的製剤は、バイオテクノロジーという技術を使って作られたお薬で、炎症を引き起こす特定の物質をピンポイントで狙い撃ちします。脊椎関節炎の治療では、主に以下の3種類の薬剤が使われます。
これらの薬は免疫の働きを抑えるため、感染症(肺炎や結核など)にかかりやすくなるリスクがあります。治療を始める前には、結核などの感染症がないかどうかの検査を必ず行います。また治療中は感染症にかかりやすいため、体調不良の際にはすぐにかかりつけ医に相談が必要です。
① TNF阻害薬
体の中で炎症の中心的な役割を果たしている「TNF」という物質の働きを強力に抑えます。脊椎関節炎の治療で最も長く使われている実績のある薬で、生物学的製剤の中では価格も比較的安く使用しやすいです。背骨の痛みだけでなく、目の炎症(ぶどう膜炎)や腸の症状がある場合にも効果が期待できます。基本的に自己注射で使用します
② IL-17阻害薬
骨の炎症や、骨が余分にできてしまうことに関わっている「IL-17」という物質の働きを抑えます。TNF阻害薬と同じくらい高い効果があり、安全性も高いです。特に、乾癬という皮膚の病気がある場合に高い効果を発揮します。基本的に自己注射で使用します
③ JAK阻害薬
細胞の中で炎症の指令が伝わる経路(JAK経路)をブロックすることで、生物学的製剤と同等の高い効果を発揮する薬です。他の薬と比較して注射ではなく飲み薬で治療できる点がメリットですが、価格が高いことや、帯状疱疹になりやすいなどデメリットがあります。
9. 将来の見通し:予後
脊椎関節炎は長く付き合っていく慢性的な病気ですが、近年は生物学的製剤などの登場により、多くの患者さんが痛みを感じることなく、病気になる前と同じような生活を送れるようになってきています。昔のように「背骨が曲がって動けなくなる」といった重症化するケースは減ってきています。早期に発見し、適切な治療と運動を継続することで、仕事や趣味、スポーツなどを楽しみながら生活していくことが十分に可能です。
もし、「長引く腰痛(特に朝のこわばり)」や「手足の関節の腫れ」など、気になる症状がある場合は、いつでもご相談ください。
当院では膠原病内科(リウマチ科)の専門医と指導医の資格を持った医師が治療にあたります。また、生物学的製剤などの最新の薬まで駆使して脊椎関節炎の治療に当たります。千葉で脊椎関節炎の診断・治療が気になった方は、是非「こあら内科クリニック」にご相談下さい!
